03.それは始まりの合図
「「・・・・・・っっ!!」」
角を曲がった所で、景時さんとぶつかってしまった。
謝ろうと思って顔を上げた時、お互いが押さえている部分を見て・・・一瞬動きが止まる。
――― 押さえているのは、唇
そういえばぶつかった時、何か柔らかな物が触れた気がした。
「・・・あ、あぁ〜・・・ごめんねぇ、ちゃん。怪我・・・しなかったかな?」
「は、はい・・・大丈夫、です。景時さんこそ大丈夫ですか?」
「オレは、大丈夫だよ。うん。」
そう話しながらもお互いの唇に視線は固定されたまま。
――― もしかして、まさか・・・?
どちらとも言い出せず、ただただ相手を見つめていると、背後からそれぞれ声をかけられた。
「景時!何処にいる!!」
「すみませんさん。ちょっと手を貸して頂けますか?」
「あぁ九郎、今行くよ。」
「はい、分かりました。」
景時さんは九郎さんに、あたしは弁慶に呼ばれてそれぞれ踵を返す。
それでも何だか景時さんの事が気になって振り返れば、同じように景時さんも足を止めてこちらを振り返ってくれていた。
「えーっと、君の用事が終わって時間があったら、さ・・・一緒に洗濯とかしない?」
「・・・はい。」
「じゃぁまた・・・後で。」
「はい!」
当たり前の日常で、今まで普通に一緒にやっていた事なのに・・・今日は洗濯が凄く楽しみに思える。
――― 唇が人の心を開く鍵だ、というのは本当かもしれない